名物無し。普通である事の大事そして いい加減。普段使いの店に思う事。
この店のウリは何?
この店のコンセプトは?
そして、この店のキラーコンテンツは?
飲食業界でよく耳にする言葉です
自分達も今迄、店作りの中で数多く使ってきましたし、求められてきました
此間、よくお仕事を頂くクライアントと新店の構想を練りながら呑んでいた時「ウチの店は名物や売りを作らない」と言う話をきました。大衆酒場のお手伝いをよくさせて頂くクライアントです。
失礼を承知で言わせて頂くと、正直凄く美味しいモノがある訳でもなく、言われる通りウリの名物がある訳でも有りません。希少品種の地酒やワインがある訳でもありません。
けれども、老若男女、1人呑み、カップルにグループ。週末は家族連れまでが、実に気楽に愉しそうに店を使ってます。
ずっと呑んだり食ったり作ったりをし続けて来て最近感じるのは、「頑張り過ぎは長続きしない」と言う事。
昔、少しだけ修行させて頂いた尊敬する建築家の大先生に「素人に褒められる様な仕事はしちゃいけない」と言われた事があります。それは、他より目立つモノは気を惹き易く、そして飽きられ易いと言う事だとか。大先生は住宅建築の名人でも有りました。長く使われる住宅の様な建築は一通りのバランスを整えると、目立つトコロもなくなり褒められる様な事もなくなる(素人は何処褒めて良いか分からなくなるのだとか)。その代わり飽きる事なく長く使い続けて貰える。
若い頃はピンとこない言葉でしたが、年を取る毎に自分の中にジワジワ泌みてくる言葉です。
店を作る時、キラーコンテンツや人目を惹くデザインは勿論大事な要素でもありますが、それが過ぎると、その要素が飽きられた時に店も色褪せて見えてしまう事があります。
店側の思いと、お客が同じ方向を向いてくれるとは限りません。開店して初めて気づく事、意図と違う事がウケる事、キラーコンテンツがキラーにならなかった事など、店が始まると色々な事に直面します。
前述の頑張り過ぎないとは、同時に店やコンセプトに過度な期待はしないと言う事でもあります。
出来る事、提供出来るモノをしっかり用意して、走りながら考える。直面する出来事に柔軟に対応出来る振り幅を持つ。要は最初から余り作り込まない。変えていける余白を持ってスタートする。一番信頼すべきは、店を司る人やチームの腕、技量、そしてセンスだと思います。
お店は潰しの効かない装置では無く、なるべくシンプルな道具であり、頼る(依存する)モノではなく、使いこなしていくモノだと思うのです。
ついつい店作りの話をしてしまいましたが(仕事なもんで、、)、この事は店の在り方にも繋がっていると自分は思うのです。
美味しいモノを食べて貰いたい。美味いお酒を呑んでもらいたいと思う事は、店をやる側が考える当たり前の事です。頑張る気持ちは良くも悪くもお客に伝わります。客だって美味しい食べ物、美味しいお酒に出逢える事は愉しく、好奇心を満たしてくれます。
でも、店が頑張る。客も応える。店がもっと頑張る。客ももっと応えようとする、、。
たまに伺うご褒美ご飯なら良いのです。
知的好奇心も総動員して愉しむ価値のある店は沢山あります。
でも、この丁々発止も、過ぎれば疲れます。
日常的に普段使いする店ではもう少し楽でいたい。客が頑張らないでいられる様な配慮。
これって、中々難しいけど、実は凄く大事な事だと思うのです。不味ければ客は不満を感じます。でも、美味過ぎるとテンション上がって、いつか疲れちゃう。
不味くもなくて、美味過ぎもしない。
無意識のうちに食べていて、気づくとなくなってるアテ。
一つ酒を、何考える事も無く呑み続けてる時間。老舗と言われている店では、そんな居心地に暫し出会う事があります。
その居心地は、一朝一夕に出来上がるものではなく、経験と時間の積み重ね、そして努力の先に出来上がっていくんだろうなぁと思いながら、そんな店の主達の話を聞いていると「出過ぎた事はしない」「大した事はやっていない」みたいな言葉を良く耳にします。
その言葉は「客に何かを仕掛けるなんておこがましい、手を抜かずちゃんとしたモノを出し続けているだけ」とも聞こえてくるのです。
冒頭のクライアントの店の客足が落ちないのは、そんな気負いの無い誠実さ、お客が頑張る必要の無い店であり続ける為の加減の観察を怠らないなど、目に見えない努力と意識の積み重ねがあるのだと思うのです。
其れは生業として店を守り続けてきた先人がして来た事と何ら変わらない事です。
移り変わりの早いこの業界で10年、20年、そして30年通用し続ける為に必要な事は、メディアが発達し情報を容易く入手出来る今も、そんなモノが無かった昔も、実はそれ程変わらない様な気がします。
お客が頑張らないで愉しめるいい加減(良い加減)な店。頑張り過ぎない努力を怠らない店。
コロナで皆んなが疲弊している今の時代だからこそ、そんな店が改めて求められている様な気がします
「然りとて褒める処もなく、只々居心地良く、気がつくと長居をしてしまった。帰った後、暫くすると何故かまた行きたくなる」
大好きな建築家吉田五十八が理想の住宅とは?と言う問いに答えた言葉です。
自分もこんな店が作れる様、日々努力です。